「SES契約は合法なのか、それとも違法な偽装請負なのか」——この疑問はSESエンジニアにとって非常に重要なテーマです。SES(システムエンジニアリングサービス)契約は、適切に運用されれば完全に合法ですが、実態が指揮命令を客先が行う状態になると「偽装請負」として違法となり、SES企業・発注企業の双方が刑事罰を含む法的リスクを負います。本記事では、SESが合法・違法になる判断基準を2026年最新の法令・判例・フリーランス新法をもとに徹底解説します。
- SES契約の法的根拠と請負・派遣との決定的な違い
- 偽装請負と判断される具体的な状況と5つの判断基準
- エンジニアが今すぐ使える自己診断チェックリスト10項目
- SESエンジニア・企業それぞれの法的リスクと対処法
- 2026年フリーランス新法がSES業界に与える影響
- SES契約の法的位置づけ|準委任契約と派遣の決定的な違い
- SES契約が合法となる5つの条件
- 偽装請負とは?違法と判断される具体的な状況
- SES・請負・労働者派遣の法的比較表
- 現場が合法か今すぐ確認できる自己診断チェックリスト10項目
- 偽装請負が発覚した場合のリスクと対処法
- 2026年最新法改正とSES業界への影響
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
SES契約の法的位置づけ|準委任契約と派遣の決定的な違い
SES契約は「準委任契約」に分類される
SES契約の法的性質は「準委任契約」(民法656条)です。準委任契約とは、特定の業務(ITシステムの開発・保守・運用等)の遂行を委託する契約で、仕事の完成を約束する「請負契約」とは異なります。SES契約ではエンジニアはSES企業に雇用されたまま客先企業のオフィスや現場で作業を行いますが、法律上の前提として指揮命令権はSES企業(所属会社)側にあることが求められます。
SES契約の根拠となる法律は「民法第643条・656条(委任・準委任)」です。業務の達成に向けた手順や方法はエンジニア・SES企業が自律的に判断し、客先は「何を作ってほしいか(成果の仕様)」を指定できますが、「どのように・どの順番で作業するか(労働の方法)」を指示する権限は持ちません。
労働者派遣との法的な違い
SES(準委任)と労働者派遣では、根拠法・指揮命令権・許認可要件のすべてが異なります。労働者派遣は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)」が適用され、派遣先企業がエンジニアに直接指揮命令を行うことが法律上認められています。一方SES(準委任)では、そのような直接指示は法律違反となります。この違いを正確に理解することが、合法・違法の判断の出発点です。
また、労働者派遣事業を行うには厚生労働大臣の許可が必要です(労働者派遣法第5条)。SES企業が許可を得ずに実態として同様のことを行っていた場合、「無許可派遣」として厳しい行政処分の対象となります。
SESが「三者間契約」である理由
SES取引の基本構造は「発注企業(クライアント)」「SES企業(受注企業)」「エンジニア(SES企業の社員)」の三者関係です。エンジニアはSES企業と雇用契約を結んでいますが、実際の作業場所は発注企業のオフィス(常駐)が多く、この「雇用主≠指揮命令する場所」という構造が合法・違法の境界線をわかりにくくさせています。三者間でSOW(作業範囲定義書)を整備し、業務の範囲・目標・成果物を明確にすることが、偽装請負回避の出発点となります。
SES契約が合法となる5つの条件
SES契約が合法な準委任として認められるには、厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)」に基づく要件を満たす必要があります。以下の5条件を満たしていれば、SES契約は適法です。
条件①:指揮命令権がSES企業にある
最も重要な条件です。エンジニアへの業務指示(優先順位・手順・担当割り当て等)はSES企業のマネージャーや上長が行う必要があります。客先企業のPMや担当者が直接「この機能を今日中に実装して」「この仕様に変更して」とエンジニアに指示を出している場合、指揮命令権が実質的に客先に移っているとみなされ、偽装請負と判断されるリスクが高まります。
条件②:労働時間・勤怠管理がSES企業による
残業・休日出勤・有給取得の承認はすべてSES企業が行います。客先企業がエンジニアの残業を直接命じたり、勤怠打刻システムを客先が管理している状態は問題となります。実務では「出退勤の記録はSES企業のシステムに登録する」「時間外労働の承認はSES企業のマネージャーが行う」という運用が求められます。
条件③:業務の範囲と成果がSOWで定義されている
SES契約では「何のために・何を・どの水準で」を定めたSOW(Statement of Work)を契約書に添付し、業務範囲を明確化することが重要です。SOWが曖昧だと、客先が「この作業もやって」と随時指示を追加するケースが生じ、実態として業務命令(指揮命令)と変わらない状態になります。SOWには業務内容・スキル要件・成果物・検収基準を明記します。
条件④:SES企業が業務の遂行方法を自律的に決定する
「どの技術で」「どの手順で」「どのツールで」作業するかの決定権はSES企業・エンジニア側にあります。客先が特定のツールや手順を指定することはできますが、それが「業務遂行に必要な環境の指定(合法)」なのか、「労働の指揮命令(違法)」なのかは文脈によって判断されます。
条件⑤:SES企業が独立した形で業務を遂行している
37号告示では、請負事業主が自己の機械・設備・材料を使用するか、専門的な技術・経験に基づいて業務を遂行していることが合法要件の一つとされています。現代のIT業務では客先環境を使うことが多く、このポイント単独では違法とは判断されないケースが多いですが、他の条件と合わせた総合的な判断が必要です。
株式会社HLTでは、SES契約の合法性確認を入社後のオリエンテーションで必ず実施しています。たとえば、Javaエンジニア5年目のメンバーが客先PjMから直接タスクをアサインされていた事例では、HLTのコーディネーターが速やかに介入し、「HLT→エンジニア」の指示系統に切り替えたことで、コンプライアンスリスクをゼロにしながら月単価を47万円から62万円へ引き上げることに成功しました。適法な運用がエンジニアの待遇改善にもつながります。
偽装請負とは?違法と判断される具体的な状況
偽装請負の定義
偽装請負(ぎそううけおい)とは、契約書の名目は「業務委託」「準委任」であるにもかかわらず、実態として発注者(クライアント企業)が直接エンジニアに指揮命令する状態になっていることを指します。厚生労働省の37号告示では、請負と労働者派遣事業の区分基準が細かく規定されており、この基準に照らして「実態が派遣と同じ」と判断されれば、偽装請負として違法となります。
偽装請負と判断される具体的なケース
以下のような状況が現場で起きている場合、偽装請負のリスクが高いと判断されます。
- ケース①:客先PMがエンジニアに直接タスクを指示する——Slackやメールで「今日中にこの機能を実装して」と客先担当者が直接命じている
- ケース②:勤怠を客先のシステムで管理している——客先の打刻システムで出退勤を記録し、残業も客先に申請している
- ケース③:客先が配置・担当変更を決定する——「あのエンジニアをこのプロジェクトに移して」と客先が直接SES企業に依頼し、エンジニアに対して実質的な人事権を行使している
- ケース④:面談・選考で客先がエンジニアを選別する——SES参画前に客先が技術面談を実施し、「このエンジニアは合わない」と拒否権を行使している
- ケース⑤:業務マニュアルを客先が作成・指示している——「この手順書に従って作業して」と客先が作成した詳細なマニュアルに従うことを強制されている
「グレーゾーン」に多い現場でのコミュニケーション
実務では、客先担当者との日常的なコミュニケーションの中で業務の優先順位が変わったり、仕様の細部が変更されることがあります。これが「情報共有・相談(合法)」なのか「業務命令(違法)」なのかの境界線は非常にグレーです。判断の目安は「最終的な業務の優先順位・遂行方法の決定権がSES企業側にあるか否か」です。客先の発言はあくまで「要望・相談」として受け取り、最終判断はSES企業のマネージャーを通じて行う運用が推奨されます。
SES・請負・労働者派遣の法的比較表
| 項目 | SES(準委任) | 請負 | 労働者派遣 |
|---|---|---|---|
| 根拠法 | 民法656条(準委任) | 民法632条(請負) | 労働者派遣法 |
| 指揮命令権 | SES企業(受注者) | SES企業(受注者) | 派遣先企業(発注者) |
| 成果物の責任 | なし(業務遂行のみ) | あり(完成義務) | なし |
| 許可要件 | 不要 | 不要 | 厚生労働大臣許可が必要 |
| 勤怠管理 | SES企業 | 受注者 | 派遣先企業(一部) |
| 福利厚生 | SES企業が提供 | 受注者が提供 | 派遣元企業が提供 |
| 違反時の罰則 | 実態が派遣なら労働者派遣法違反 | 実態が派遣なら労働者派遣法違反 | 無許可の場合:1年以下の懲役等 |
現場が合法か今すぐ確認できる自己診断チェックリスト10項目
以下の項目で「はい」が多ければ多いほど、偽装請負のリスクが高まります。5項目以上「はい」の場合は、所属SES企業への相談または専門機関への問い合わせを検討してください。
【偽装請負リスク 自己診断チェックリスト】
- □ 客先の担当者から直接「〇〇をやって」と業務指示を受けている
- □ タスクの優先順位を客先PM・リーダーが決めている
- □ 残業・休日出勤の承認を客先が行っている
- □ 勤怠管理システムが客先のものを使用している
- □ 担当プロジェクトへの配置・異動を客先が決定している
- □ 業務マニュアル・手順書を客先が作成し、それに従うよう指示されている
- □ 「スキルシート」を見せて参画前に客先から強い選別・面接を受けている
- □ 客先のセキュリティ規程・就業規則のみで管理されている
- □ SES企業のマネージャーと週1回以上の定期報告がない
- □ 契約書にSOW(業務範囲定義書)が添付されていない、または内容が曖昧
判定目安:
- 0〜2項目:リスク低(適法運用の可能性が高い)
- 3〜4項目:グレーゾーン(SES企業への確認を推奨)
- 5項目以上:リスク高(偽装請負の可能性あり・早急な対応を推奨)
株式会社HLTでは、上記チェックリストを元に年2回のコンプライアンス面談を実施しています。あるフロントエンドエンジニア(経験3年)の事例では、面談で「客先のチケット管理システムで直接タスクがアサインされている」「残業の連絡が客先からくる」という状況が判明しました。HLTが即座にクライアント企業と協議し、指示系統をHLTマネージャー経由に切り替えた結果、コンプライアンス問題を解消しながら当該エンジニアの月単価も43万円から55万円へ引き上げることができました。
偽装請負が発覚した場合のリスクと対処法
SES企業・発注企業に課される罰則
偽装請負が労働基準監督署や厚生労働省の調査で発覚した場合、以下の法的制裁が発生します。
- 労働者派遣法違反(無許可派遣):1年以下の懲役または100万円以下の罰金(労働者派遣法第59条・60条)
- 行政指導・業務改善命令:厚生労働省からの是正勧告・業務停止命令
- 許可取り消し・事業廃止命令:悪質な場合は事業許可の取り消しも
- 労働契約申込みみなし制度の適用:一定条件下でエンジニアが発注企業に直接雇用を申し込める権利が発生(労働者派遣法第40条の6)
エンジニア個人のリスク
エンジニア本人が偽装請負で直接罰則を受けることは基本的にありませんが、以下のリスクに注意が必要です。所属SES企業が行政処分を受けて業務停止・廃業になるリスク、「労働契約申込みみなし」が適用された場合に意図せず発注企業への転籍を迫られるケース、問題のある会社に在籍し続けることによるキャリアリスクなどが挙げられます。
偽装請負を発見した際のエンジニアの対処法
チェックリストで問題を発見した場合、以下のステップで対処することを推奨します。まず状況を具体的に記録・文書化し、次に所属SES企業のマネージャーや人事部門に報告します。1〜3ヶ月経っても改善されない場合は、現場変更またはSES企業変更を検討してください。外部機関への相談先は、都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」、法テラスなどがあります。
2026年最新法改正とSES業界への影響
フリーランス新法(特定受託事業者保護法)の施行
2024年11月に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」は、SES業界にも大きな影響を与えています。本法律では、業務委託を発注する企業に対して以下の義務が課されています。取引条件の書面・電磁的方法による明示義務、ハラスメント対策措置義務、不当な給付内容変更の禁止、育児・介護への配慮義務——これらはSES企業と個人事業主・フリーランスエンジニアとの取引にも適用される場面があり、2026年現在、業界全体でコンプライアンス意識が高まっています。
2026年インボイス制度の経過措置変更
2026年10月以降、インボイス制度の経過措置が「8割控除」から「5割控除」に変更されます(2029年9月末まで)。フリーランスとしてSES業務を受託しているエンジニアでインボイス未登録の場合、発注側SES企業が仕入税額控除を一部しか受けられなくなるため、実質的な単価引き下げ交渉を受けるリスクがあります。消費税の取り扱いについて事前に確認しておくことが重要です。
2026年における「適法なSES運用」の4つのポイント
厚生労働省や関係機関は、契約名ではなく「運用の実態」で合法・違法を判断します。2026年現在、適法なSES運用として求められているのは、①SOW(業務範囲定義書)の整備と指示系統の文書化、②SES企業マネージャーによる定期的な業務報告・フォローの実施、③フリーランス新法に対応した書面による取引条件の明示、④チャットログ・メール・指示内容を記録した「説明可能な運用設計」の維持——の4点です。
株式会社HLTでは、2024年フリーランス新法の施行に合わせて全取引契約の見直しを実施しました。SOWの標準フォーマットを刷新し、全エンジニアに対して取引条件の書面明示を徹底。さらに四半期ごとのコンプライアンス研修を導入した結果、過去2年間でコンプライアンスに関するエンジニアからの相談件数が65%減少しました。エンジニアが安心して業務に集中できる環境づくりを続けています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 客先から仕様の変更依頼を受けた場合、それは違法になりますか?
A. 仕様変更の「依頼・相談」を受けること自体は違法ではありません。問題なのは、その変更を実施するかどうかの最終判断がSES企業を経由せず、客先の「命令」として処理されている場合です。「お客様からこんな変更依頼がありました」とSES企業のマネージャーに報告し、SES企業から正式な業務指示として出してもらうフローを守ることが重要です。
Q2. スキルシートを客先に提出して選考されることは違法ですか?
A. スキルシートの提出自体は一概に違法とは言えません。問題となるのは、客先企業がスキルシートを基に「このエンジニアは合わない」と強い拒否権を行使し、事実上の「採用面接」を行っているケースです。業務の適正遂行に必要な技術・経験の確認は認められていますが、人選そのものを支配する行為は問題視されます。
Q3. 客先常駐でSES企業のマネージャーと会う機会がほとんどない場合はどうすればよいですか?
A. 月1回以上のオンライン面談や定期レポートなど、SES企業との接点を定期的に確保することが重要です。「マネージャーと全く連絡が取れない」状態は、指揮命令系統が実質的に客先に移っていることを示す状況証拠になりえます。所属SES企業に対し、定期的なフォロー体制の構築を求めることをお勧めします。
Q4. 偽装請負の問題を相談できる外部の窓口はありますか?
A. 都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」(全国の労働局・ハローワーク内に設置)、法テラス(法的トラブル全般の相談)、公正取引委員会・中小企業庁のフリーランス新法相談窓口などがあります。
Q5. SES企業を選ぶ際にコンプライアンス体制を確認するにはどうすればよいですか?
A. 面談時に「業務指示の流れはどのようにしていますか?」「SOWの整備状況と現場フォローの頻度は?」「過去にコンプライアンス問題が発生したことはありますか?その対応は?」を質問することを推奨します。これらに明確・具体的に答えられる企業は、法的リスク管理がきちんとできている証拠です。
まとめ
SES契約は民法の準委任契約に基づく適法な就業形態ですが、客先企業が直接エンジニアに指揮命令する「偽装請負」の状態になると、労働者派遣法違反として企業に刑事罰が科されるリスクがあります。本記事の要点を整理します。
- SES(準委任)の法的前提は「指揮命令権がSES企業にある」こと
- 偽装請負の判断は「契約名称ではなく運用実態」で行われる
- 自己診断チェックリスト10項目で現場のリスクを今すぐ確認できる
- 偽装請負発覚時はSES企業・発注企業ともに1年以下の懲役を含む罰則
- 2026年フリーランス新法・インボイス制度が新たなコンプライアンス課題として浮上
株式会社HLTでは、適法なSES運用体制と充実したエンジニアサポートを徹底しています。「今の現場は大丈夫?」と感じている方や、安心して働けるSES企業を探している方は、ぜひ一度ご相談ください。
参考文献・出典
- 厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)」https://www.mhlw.go.jp/(最終アクセス:2026年6月)
- 厚生労働省「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(2021年)https://www.mhlw.go.jp/(最終アクセス:2026年6月)
- 公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」(2024年施行)https://www.jftc.go.jp/freelance/(最終アクセス:2026年6月)
- 厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」(2026年版)https://www.mhlw.go.jp/(最終アクセス:2026年6月)










