SES(システムエンジニアリングサービス)契約は、2026年現在も日本のIT業界において主流の働き方のひとつですが、「偽装請負」「違法な指揮命令」「多重下請け問題」など、法令面でのリスクが常について回ります。適切なコンプライアンス対策を講じないと、SES企業もエンジニア本人もクライアント企業も、思わぬ法的リスクを負うことになりかねません。
本記事では、SES契約の法的位置づけと2026年最新の法改正動向をもとに、偽装請負の判断基準・違法となるケース・実務上のチェックリストを徹底解説します。SES企業の担当者・エンジニア・クライアント企業の担当者、いずれの立場でも役立つ内容をまとめています。
SES契約の法的位置づけ:準委任契約とは何か
SES契約は法律上、民法第656条に基づく準委任契約として位置づけられます。請負契約・労働者派遣契約とは根本的に性質が異なり、この違いを正確に理解することが法令遵守の第一歩です。
3つの契約形態の法的な違い
①準委任契約(SES):「業務の遂行」に対して報酬が発生する契約です。成果物の完成を約束するのではなく、専門家がスキルを持って業務に取り組む「行為そのもの」に対して対価が発生します。指揮命令権はSES企業または本人にあります。
②請負契約:「成果物の完成」を約束し、完成物の引き渡しに対して報酬が発生する契約です(民法第632条)。バグ修正・システム納品などの成果物型の業務に使われます。指揮命令権は受注者側にあります。
③労働者派遣契約:派遣会社がエンジニアをクライアント企業に派遣し、クライアント企業が指揮命令権を持つ形態です(労働者派遣法に基づく)。3年のルール・同一労働同一賃金などの規制が適用されます。
SES契約の最大の特徴は「クライアント企業は指揮命令権を持たない」点です。この点が曖昧になった瞬間に「偽装請負」という違法状態が発生します。
偽装請負とは何か:判断基準と違法リスクを正確に理解する
偽装請負とは、契約書上はSES契約(準委任契約)または請負契約であるにもかかわらず、実態として労働者派遣(クライアントによる指揮命令)が行われている状態を指します。労働者派遣法第24条の2により禁止されており、発覚した場合には行政処分・罰則の対象となります。
偽装請負と判断される主なケース
①クライアント担当者が直接業務指示を出している:クライアントのマネージャーがエンジニアに「この機能を今日中に実装して」「このタスクの優先度を上げて」と直接指示する場合、指揮命令が発注者側にあるとみなされます。
②クライアントがエンジニアの出退勤・勤怠を管理している:クライアント企業が始業・終業時刻をタイムカードや入退室システムで管理し、遅刻・早退の承認権限を持っている場合は、実質的な労務管理とみなされ偽装請負の疑いが生じます。
③エンジニアがクライアントの組織図に組み込まれている:クライアントの部署に名前が掲載され、社内メンバーとして扱われている場合も問題になります。
④面談・顔合わせで特定個人を指名採用している:事前面談でクライアントが「このエンジニアでなければ困る」と特定個人の採用可否を決めるプロセスは、実態として人材採用(雇用関係)に近く、偽装請負の一要素となる場合があります。ただし現場確認や技術的なすり合わせは許容されています。
⑤成果物ではなく労働時間に対して報酬が支払われているが指揮命令もある:準委任契約では工数ベースの請求が認められますが、同時にクライアントによる指揮命令がある場合は問題となります。
2026年最新:法改正とSES業界への影響
2026年のSES業界を取り巻く法的環境は、複数の制度改正によって急速に変化しています。SES企業・エンジニアともに最新動向を把握することが不可欠です。
フリーランス保護新法(2024年11月施行)の影響
2024年11月施行の「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス保護新法)」は、SES業界にも重大な影響を与えています。主なポイントは次の通りです。
書面による取引条件の明示義務:SES企業・クライアントともに、業務委託の開始時に書面または電磁的方法で「業務内容・報酬・支払期日・納期」を明示することが義務化されました。口頭での発注・暗黙の了解による取引は違法となります。
報酬の60日以内支払い義務:業務委託の報酬は、業務完了から60日以内に支払わなければなりません。これまで一部のSES企業で見られた「3ヶ月後払い」などの慣行は違法となります。
ハラスメント対策の義務化:フリーランスに対するセクハラ・パワハラ・マタハラについて、発注者側の相談体制整備が義務付けられました。SES企業もエンジニアへのハラスメント対策を整備する必要があります。
労働基準法改正(2026年施行予定)の注目点
2026年には労働時間管理に関する法改正が施行される見込みで、時間外労働の上限規制が従来の業種制限を超えて厳格化されます。SES企業はエンジニアの実労働時間をリアルタイムで把握・管理する義務が強化されており、クライアント先での長時間労働を放置した場合の企業責任が明確化される方向です(出典:厚生労働省)。
多重下請け規制の強化
経済産業省は2025年より、IT業界における多重下請け構造の透明化を推進しています。4次以上の下請けが介在するSES案件では、各層の契約内容・報酬単価の開示が求められるケースが増加しており、コンプライアンス管理が不十分なSES企業はクライアントから契約を打ち切られるリスクも高まっています(出典:経済産業省)。
SES企業が取るべきコンプライアンス実務対策
法令リスクを最小化するために、SES企業が実務上取るべき具体的な対策を解説します。株式会社HLTでは、以下の対策を全案件に標準的に適用し、エンジニアが安心して業務に取り組める環境を整備しています。
契約書の整備と明確化
SES契約書には「指揮命令権はSES企業または本人にある」「作業指示の経路は明確に定める」「成果の定義または業務範囲の定義を具体的に記載する」の3点を必ず盛り込みます。曖昧な契約書は偽装請負の温床になります。定期的な契約書の法務レビューも必須です。
作業指示の経路を明文化・遵守させる
クライアントからエンジニアへの業務指示は、必ずSES企業の担当者(プロジェクトリーダーまたはSES側PM)を経由する仕組みを構築します。クライアント担当者が直接エンジニアにSlackやメールで指示を出す慣行がある場合は、速やかに是正する必要があります。
定期的なコンプライアンス研修の実施
エンジニア・営業・管理職すべてのスタッフを対象に、年1回以上の法令遵守研修を実施します。「偽装請負とは何か」「指揮命令権の問題がなぜ生じるか」をロールプレイング形式で学ぶことで、現場レベルでの意識が高まります。株式会社HLTでは社内弁護士監修のコンプライアンス研修を毎年実施しており、過去3年間で偽装請負に関するクライアントからの指摘がゼロという実績があります。
エンジニア側が知っておくべき対処法
エンジニア本人も法令違反の「当事者」になる可能性があります。クライアントから直接業務指示を受けている、出退勤をクライアントが管理している、などの状況に気づいたら、まずSES企業の担当者に報告・相談することが重要です。問題を放置すると、後から「違法な働き方に加担していた」とみなされることもあります。
SES契約書で必ず確認すべき条項チェック
SES案件に参画する前に、契約書の以下の条項を必ず確認することで、後々のトラブルを防げます。
業務範囲・業務内容の明記:「Webアプリケーションの設計・開発業務」など、具体的な業務内容が記載されているか確認します。「システム運用全般」などの曖昧な記載は後のトラブルの原因になります。
指揮命令権の記載:「甲(SES企業)の指揮命令のもと」または「乙(エンジニア)の裁量により」業務を行う旨が明記されているか確認します。「乙はクライアントの指示に従い」などの記載は問題です。
就業場所・就業時間の記載:業務を行う場所(クライアント先・リモート・自社など)と就業時間(コアタイム等)が明記されているか確認します。
報酬・支払い条件:月単価・支払サイト(何ヶ月後払いか)・精算基準(上限・下限稼働時間)が明記されているか確認します。精算幅が140〜180時間であれば月に必要な稼働量の基準が分かります。
秘密保持義務:クライアントの機密情報・顧客情報の取り扱いについて具体的な記載があるか確認します。退職後・案件終了後の秘密保持期間も確認しましょう。
損害賠償・責任範囲:準委任契約では請負契約とは異なり、成果物未完成に対する瑕疵担保責任は原則として発生しませんが、故意・重過失による損害については賠償責任を負う場合があります。上限額の設定があるか確認しましょう。
知的財産権の帰属:業務の中で開発したソフトウェア・コードの著作権がどちらに帰属するか確認します。多くの場合はクライアント側に帰属しますが、既存の汎用ライブラリ・ツールを使った場合の取り扱いも明確にしておくと安心です。
コンプライアンスチェックリスト:現場で使えるセルフチェック【完全版】
以下のチェックリストは、SES企業担当者・エンジニア・クライアント担当者が現場で活用できる実践的なセルフチェック項目です。
【SES企業チェック】
- □ SES契約書に「指揮命令権はSES側にある」旨が明記されているか
- □ 業務内容・報酬・支払期日が書面で明示されているか(フリーランス保護新法対応)
- □ 報酬の支払期日が業務完了から60日以内に設定されているか
- □ エンジニアへの業務指示経路が明確で、クライアント直接指示がないか
- □ 勤怠管理はSES企業側で実施しているか(クライアント任せになっていないか)
- □ 多重下請け(4次以上)の案件は特別な注意が払われているか
- □ 年1回以上のコンプライアンス研修を全スタッフ対象に実施しているか
【エンジニアチェック】
- □ 業務指示はSES企業の担当者または自分自身から出されているか
- □ 出退勤・勤怠管理はSES企業が行っているか
- □ クライアント企業の組織図・名刺に自分が含まれていないか
- □ 就業条件(業務内容・場所・時間)が書面で交付されているか
- □ 残業・休日出勤の承認はSES企業が行っているか
【クライアント企業チェック】
- □ SESエンジニアへの直接業務指示を避けているか
- □ SESエンジニアの出退勤管理をクライアント側で行っていないか
- □ SESエンジニアを社内組織図や名刺に記載していないか
- □ SES契約での事前面談は技術確認の範囲内に収まっているか
ホワイトSES企業を見分けるコンプライアンス判断基準
SESエンジニアが企業を選ぶ際、コンプライアンス意識の高さは「ホワイト企業かどうか」を判断する重要な指標です。法令遵守の体制が整っているSES企業は、エンジニアを守る仕組みも整っており、長期的に安心して働ける環境があります。
コンプライアンス優良企業が持つ7つの特徴
①契約書の内容を事前に丁寧に説明する:入社・案件参画前に契約内容・就業条件・指揮命令ルールについて丁寧に説明し、疑問点に答えてくれる企業は信頼できます。「とにかく現場に入ってから考えよう」という企業は要注意です。
②クライアントとの直接指示が発生しないよう仕組みを作っている:SES企業側のコーディネーター・PMが定期的に現場をチェックし、クライアントからの直接指示が横行していないかを管理しています。
③勤怠管理を自社システムで行っている:タイムシートや勤怠管理ツールをSES企業が独自に提供・管理しており、クライアントの勤怠システムへの登録を強制しない仕組みを持っています。
④残業・休日出勤の承認フローが社内にある:残業が必要な場合にはSES企業の担当者への事前申請・承認フローが確立されており、クライアントの一方的な残業命令に対して会社がエンジニアを守る体制があります。
⑤法務・コンプライアンス担当者が在籍している:顧問弁護士や社内法務担当がいて、契約内容の適法性を定期的にチェックしている企業は安全度が高いです。
⑥エンジニアからの相談窓口(内部通報制度)がある:現場で問題が起きた際に相談できる窓口があり、エンジニアが声を上げやすい文化があります。株式会社HLTでは専用の相談ホットラインを設置しており、コンプライアンス上の問題について匿名で相談できます。
⑦ISO 27001・プライバシーマーク等の第三者認証を取得している:情報セキュリティ・プライバシー保護に関する第三者認証は、一定のコンプライアンス水準を外部から証明するものです。認証企業は管理体制全体の品質が高い傾向があります。
SESエンジニアが現場で直面しやすいグレーゾーン事例と対処法
現場では「これは問題あるの?」と判断に迷うケースが多く発生します。代表的なグレーゾーン事例と対処法を解説します。
事例1:クライアントの朝礼・ミーティングに毎日参加させられる
クライアント社員と同じ朝礼・全体会議への参加強制は、会社の業務管理下に置かれているとみなされる可能性があります。対処法:参加が必要な場合はSES企業担当者を通じて「参加の目的と業務上の必要性」を文書で確認し、必要最小限に留めるようにしましょう。
事例2:クライアントから直接「残業してください」と言われる
これは明確に問題があります。残業の指示権限はSES企業(または本人)にあるため、直接の残業命令はグレーではなくアウトです。対処法:その場で「SES企業の担当者に確認します」と伝え、SES企業経由で正式に確認・承認を得てから残業に取り組みましょう。
事例3:クライアントの社員証・名刺を渡される
クライアント企業の社員として対外的に活動することになるため、実態として雇用関係があるとみなされる可能性が高い行為です。対処法:SES企業の担当者に即座に報告し、自社(SES企業)の社員・業務委託者であることを明示する名刺・身分証の交付を求めましょう。
SES業界において「適法なSES企業」と「コンプライアンス問題を抱えるSES企業」の見分け方は、エンジニアにとって非常に重要なスキルです。特に2025〜2026年にかけては、厚生労働省・都道府県労働局によるSES業界への立入調査が強化されており、問題のある企業への処分事例が増加しています。自分が参画するSES企業・案件が適切な法令対応をしているか、入社前・案件参画前に上記のチェックリストで徹底確認することを強く推奨します。
よくある質問(FAQ)
- Q1. SES契約での「面談(顔合わせ)」は合法ですか?
- 技術力・コミュニケーション能力の確認を目的とした面談は一般的に認められています。ただしクライアントが特定個人の採用可否を決定し、不採用になった場合にSES企業が別候補を提案する行為は、実質的な採用活動(労働者供給)に近くなるため注意が必要です。
- Q2. SES契約で残業が発生した場合、指示はどちらが出しますか?
- 残業の指示はSES企業(または本人)が行うべきです。クライアントが「今日中に仕上げて」と残業を命じる行為は、指揮命令権の問題につながります。残業が必要な場合はSES企業経由での確認・承認フローを構築することが重要です。
- Q3. 偽装請負が発覚した場合のペナルティはどのくらいですか?
- 労働者派遣法違反として、SES企業(受注側)には1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります(同法第59条)。クライアント(発注側)も共同違反者として処罰対象となるケースがあります。また行政指導・公表による企業イメージへのダメージも深刻です。
- Q4. フリーランス保護新法は一人親方のSESエンジニアにも適用されますか?
- はい。「特定受託事業者」として、個人事業主のエンジニアは法律の保護対象です。書面による取引条件の明示・60日以内の報酬支払い・ハラスメント防止対策などが発注者に義務付けられており、違反した発注者には行政指導・公表の対象となります。
- Q5. SES案件の多重下請けは何次まで許容されますか?
- 法律上の上限はありませんが、経済産業省の「情報サービス産業における下請適正取引等の推進のためのガイドライン」では、過度な多重下請けの排除が強く求められています。実務上は3次以内が一般的で、4次以上になると各層の管理責任が曖昧になりコンプライアンスリスクが高まります。
また、問題のあるSES企業・案件に気づいた場合は、都道府県の労働局・ハローワークへの相談・申告が可能です。労働基準監督署(労基署)への申告は匿名で行うことができ、是正勧告の対象となることで業界全体のコンプライアンス水準の底上げにつながります。個人でのアクションが難しい場合は、弁護士や労働組合への相談も有効な手段です。
まとめ:SES契約のコンプライアンスは「指揮命令権」の管理が核心
SES契約のコンプライアンスで最も重要なのは「指揮命令権が誰にあるか」を常に意識し、クライアントによる直接指示が発生しない仕組みを構築・維持することです。偽装請負は「悪意を持って行う違法行為」だけでなく、「慣習として何となく続けていた」結果として生じることが多く、日常的なセルフチェックが不可欠です。
2026年はフリーランス保護新法・労働基準法改正・多重下請け規制強化が重なる重要な転換期です。SES企業・エンジニア・クライアント企業のそれぞれが法令を正しく理解し、適切なコンプライアンス体制を整えることで、健全で持続可能なSES業界の発展につながります。
株式会社HLTでは、法令に則ったSES案件の紹介・契約管理・コンプライアンス相談を提供しています。「現在の契約が適法かどうか不安」「コンプライアンス体制の整備方法を知りたい」という方はお気軽にご相談ください。
株式会社HLTでは、コンプライアンスを最重要課題として位置づけ、全案件における契約書の法務レビュー・定期的なコンプライアンス研修・エンジニアからの相談窓口の運営を継続的に実施しています。過去3年間で偽装請負・違法な指揮命令に関する行政指導を受けたことは一度もなく、クライアント企業からもコンプライアンス管理の透明性を高く評価いただいています。SES業界でのキャリアを安心して積みたいと考えているエンジニアの方は、ぜひ一度ご相談ください。
【株式会社HLTへのご相談はこちら】
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参考文献・出典
- 厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」(2024年改訂)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken/
- 経済産業省「情報サービス産業における下請適正取引等の推進のためのガイドライン」(2023年改訂)https://www.meti.go.jp/
- 内閣官房「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(2024年11月施行)https://www.cas.go.jp/










