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SESの仕組みを条文で理解する【2026年版】準委任契約と37号告示の境界線

SESの仕組みを条文で理解する【2026年版】準委任契約と37号告示の境界線

SESの仕組みは、契約書の上では「準委任契約」というひとことで片づけられます。しかし実務で問題になるのは、その契約書に書かれていない部分——誰が誰に指示を出せるのか、報酬はいつ発生するのか、途中でやめたらどうなるのか——です。この記事では、民法と労働者派遣法の条文、厚生労働省の37号告示と公式Q&A、公正取引委員会の実態調査という一次資料だけを使って、SESの仕組みを条文レベルで組み立て直します。2020年の民法改正で条文の中身が入れ替わった箇所や、2026年5月に追加されたばかりの行政解釈まで反映しています。

SESの仕組みを3分で:契約は2本、指揮命令は1本

SES(システム・エンジニアリング・サービス)を図にすると、登場人物は3者です。公正取引委員会は実態調査報告書のなかで、SESを次のように定義しています。

SES:システム・エンジニアリング・サービス。技術者を派遣しシステム開発・インフラ環境構築等を行うサービスを提供する契約。準委任契約、常駐型が多い。

出典:公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」(2022年6月29日)報告書PDF

契約は「会社と会社」「会社と個人」の2本しかない

SESで結ばれる契約は2本です。1本目はSES企業と客先企業のあいだの準委任契約。2本目はSES企業とエンジニア本人のあいだの雇用契約です。客先企業とエンジニア本人のあいだには、契約関係が存在しません。

関係 契約の種類 根拠 この関係で発生するもの
SES企業 ↔ 客先企業 準委任契約 民法656条・643条以下 業務の委託、報酬(人月単価等)、契約期間、解除
SES企業 ↔ エンジニア 雇用契約 労働契約法・労働基準法 賃金、労働時間管理、指揮命令、社会保険、有給休暇
客先企業 ↔ エンジニア 契約なし — 本来は何も発生しない(発生させると偽装請負の問題になる)

指揮命令の線は1本だけ引かれている

この構造から導かれる結論はひとつです。エンジニアに業務上の指示を出せるのは、雇用契約を結んでいるSES企業だけ。客先企業が直接指示を出すと、契約書の表題が何であれ労働者派遣とみなされる可能性があります。厚生労働省の疑義応答集は、この点を正面から述べています。

委任(民法643条)、準委任(民法656条)も同様であり、アジャイル型開発が準委任契約を締結して行われる場合でも、実態として、発注者と受注者側の労働者との間に指揮命令関係がある場合には、その契約の形式を問わず、労働者派遣事業に該当し、労働者派遣法の適用を受けます。

出典:厚生労働省「『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』(37号告示)に関する疑義応答集 第3集」Q1PDF(最終アクセス:2026年8月27日)

なお2026年5月25日に追加された同第3集Q8は、この考え方がアジャイル型開発以外のシステム開発全般にも当てはまることを明記しました。ウォーターフォール型の常駐案件も同じ物差しで判断される、という行政解釈が公式に確定したことになります。

SES=準委任:民法656条から643条以下を準用する構造

「SESは準委任契約」と言うとき、その根拠条文は民法656条です。条文はきわめて短く、次の一文だけです。

第六百五十六条(準委任) この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

「準用する」が意味すること

656条は独立したルールを何も定めていません。委任に関する643条以下をそのまま借りてくるという宣言です。委任(643条)は「法律行為をすること」を委託する契約なので、契約締結の代理などが典型例です。システム開発や運用保守は法律行為ではないため、656条を経由して委任のルールが適用されます。

条文 見出し SES実務での意味
民法643条 委任 準委任の準用元。委託と承諾で契約が成立する
民法644条 受任者の注意義務 善管注意義務。SESで負う義務の中身はここ
民法648条 受任者の報酬 特約がなければ報酬請求できない=契約書に単価を書く理由
民法648条の2 成果等に対する報酬 2020年施行の新設条文。成果完成型準委任の根拠
民法651条 委任の解除 各当事者がいつでも解除できる/損害賠償の例外規定
民法656条 準委任 上記すべてを「法律行為でない事務」に準用する

善管注意義務は「完成義務」ではない

644条はこう定めています。

第六百四十四条(受任者の注意義務) 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

ここに「完成」の文字はありません。これが請負との決定的な違いです。請負の632条は「ある仕事を完成することを約し」と書かれています。SESで求められるのは、その職種・立場の専門家として通常期待される注意を払って業務を処理することであって、システムを完成させることではありません。逆に言えば、専門家として当然払うべき注意を欠いた場合には、成果物ができていなくても義務違反を問われ得ます。

SESと請負・派遣の違いをより広く整理した記事として、SESの契約形態の種類と違いおよびSESと派遣の違いもあわせて参照してください。

報酬ルールは2種類ある:履行割合型と成果完成型

「準委任は成果物に責任を負わない」という説明は、2020年施行の債権法改正以降は不正確です。現行民法には成果完成型の準委任という類型が条文として存在します。

履行割合型:648条3項

第六百四十八条第三項 受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。
二 委任が履行の中途で終了したとき。

SESの大半はこちらです。稼働時間・稼働人月に応じて報酬が決まり、途中で終了しても、そこまでの履行割合に応じて報酬を請求できます。月の途中で案件が終わっても日割り・時間割で精算される根拠がここにあります。

成果完成型:648条の2

第六百四十八条の二第一項(成果等に対する報酬) 委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない。
第二項 第六百三十四条の規定は、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合について準用する。

成果に報酬を紐づけた準委任では、報酬は成果の引渡しと引き換えになります。契約書に「成果物の納品をもって報酬が発生する」と書かれていれば、それは準委任でも成果完成型です。契約書の表題が「準委任契約書」でも、報酬条項の書き方によって適用ルールが変わる——これが実務上いちばん見落とされるポイントです。

比較軸 履行割合型準委任 成果完成型準委任 請負
根拠条文 民法648条2項・3項 民法648条の2 民法632条
報酬の発生 期間・稼働に応じて 成果の引渡しと同時 仕事の目的物の引渡しと同時(633条)
負う義務 善管注意義務(644条) 善管注意義務(644条) 仕事の完成
中途終了時 履行割合に応じて請求可(648条3項) 634条準用で割合請求可 634条で割合請求可
契約不適合責任 原則なし 原則なし あり(636条・637条)
SESでの頻度 大多数 一部(成果物納品型) SESとは別カテゴリ

【2026年の注意】民法634条は「瑕疵修補請求権」ではありません

ここは他の解説記事との差が出る箇所なので、独立して扱います。2020年施行の債権法改正で、民法634条は条数を保ったまま中身が完全に入れ替わりました。

条文 改正前(2020年3月31日まで) 現行
634条 請負人の担保責任(瑕疵修補請求権) 注文者が受ける利益の割合に応じた報酬
635条 瑕疵による契約解除 削除
636条 — 請負人の担保責任の制限
637条 — 期間制限(不適合を知った時から1年以内の通知)

現行634条の条文はこうです。

第六百三十四条(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬) 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。

つまり「民法634条で瑕疵の修補を請求できる」と書かれた解説は、現行法では誤りです。現行法で契約不適合を扱うのは562条以下(売買)を準用する枠組みと、請負固有の636条・637条です。ネット上には改正前の記述がそのまま残っている記事が多く、契約交渉で古い条数を持ち出すと話が噛み合わなくなります。契約書のレビュー時は、条数だけでなく条文の中身を必ずe-Gov法令検索で確認してください。

参照:e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」(最終アクセス:2026年8月27日)

指揮命令の境界線:37号告示の要件を分解する

SESが労働者派遣と区別される基準は、告示ひとつに集約されています。正式名称は「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号、最終改正:平成24年厚生労働省告示第518号)です。

「原則は派遣、例外的に請負」という建て付け

見落とされがちですが、37号告示第2条は「次の一号・二号のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする」という書き方をしています。つまりデフォルトは派遣扱いで、要件を全部満たしてはじめて請負(準委任を含む)と認められるという構造です。

号 要件 細目 SESで崩れやすい度
1号
労働力を自ら直接利用
イ 業務遂行に関する指示・管理を自ら行う (1)遂行方法の指示 (2)遂行の評価 高
ロ 労働時間等に関する指示・管理を自ら行う (1)始業終業・休憩・休日・休暇(単なる把握を除く) (2)時間外・休日労働 最高
ハ 企業秩序の維持・確保等の指示・管理を自ら行う (1)服務規律 (2)労働者の配置等の決定および変更 最高
2号
独立して処理
イ 資金をすべて自らの責任で調達・支弁 — 低
ロ 事業主としてのすべての法的責任を負う 民法・商法その他 低
ハ 単なる肉体的労働力の提供でない (1)自ら調達した機械設備・材料で処理 または (2)自ら行う企画・専門的技術・経験で処理 中

SESは客先の設備を使うことが多いため、2号ハは事実上(2)の「専門的な技術・経験」でしか満たせません。そのうえで1号ロ(労働時間管理)と1号ハ(2)(配置決定)を客先に握られると、要件が崩れます。ここがSES最大の構造的リスクです。

さらに37号告示第3条は、2条の要件を形式的に満たしていても「故意に偽装されたもの」で真の目的が労働者派遣であれば、派遣事業とみなすという脱法防止規定を置いています。書類上の体裁だけを整えても意味がない、ということです。

偽装請負の判断基準そのものをより詳しく扱った記事として、SES偽装請負の判断基準を用意しています。

現場で迷う10場面:厚労省の公式Q&Aはこう答えている

37号告示だけでは判断がつかない場面のために、厚生労働省は疑義応答集を第1集から第3集まで公開しています。SES実務で頻出する論点は、ほぼすべてここに答えがあります。

# 場面 公式Q&Aの結論 出典
1 客先が作業の順序・方法を決め、一人ひとりに仕事を割り付ける 偽装請負。口頭に限らず文書で詳細に示してそのとおり作業させる場合も同様 第1集Q7
2 労働者の人数で受発注し、投入した労働力の単価で精算する 単なる労働力の提供にすぎず偽装請負と判断される 第1集Q8
3 常駐が1名で、その本人が管理責任者を兼任している 客先→管理責任者への注文が、そのまま労働者への指揮命令になるため偽装請負 第1集Q4
4 管理責任者が非常駐で、巡回して指示している 業務遂行指示・労働者管理を自ら的確に行っていれば、非常駐だけをもって直ちに派遣とは判断されない 第2集Q8
5 客先が事前面談を行い、職務経歴書の提出を求める 一般に配置決定に影響を与えるため労働者派遣または労働者供給と判断されることがある 第2集Q13
6 客先がスキルシートの提出を求める 個人を特定できない技術レベル・経験年数の提出要求だけでは直ちに偽装請負ではない。ただし特定の者の指名・就業拒否は不可 第3集Q7
7 すべての会議に管理責任者が同席しなければならないか そこまでは求められない。ただし業務遂行方法や労働時間等の指示が必要になる場面では受注者側が自ら指揮命令する必要がある 第3集Q3・Q6
8 客先が打合せに労働者を同席させ、メールをccで送る 管理責任者の判断・了解の下であればそれのみで派遣とは判断されない。ただし客先が労働者に直接返信を求めると不可 第2集Q9・Q10
9 客先が安全衛生上、緊急に対処が必要な事項を直接指示する 偽装請負と判断されない 第1集Q10ウ
10 結果的に客先と同じ就業時間・休日・服務規律になった 合理的理由がある場合、それのみでは派遣と判断されない 第2集Q11

出典:厚生労働省「37号告示関係 疑義応答集」第1集・第2集・第3集/同「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」PDF(最終アクセス:2026年8月27日)

#2と#5は、SESの慣行そのものに向けられている

この表のなかで特に重いのは2番と5番です。人月単価での精算と客先による事前面談は、SES業界で広く行われている慣行でありながら、公式Q&Aが正面から警告している論点だからです。もっとも、単価そのものが違法なのではありません。問題になるのは「完成すべき業務ではなく投入する人数と時間だけを受発注している」という実態です。契約書に業務範囲・完了条件・成果の定義が具体的に書かれているかどうかが分かれ目になります。

SESに「マージン率の開示義務」はない:条文の主語を読む

派遣には、いわゆるマージン率の情報提供義務があります。根拠は労働者派遣法23条5項です。条文の主語に注目してください。

第二十三条第五項 派遣元事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、労働者派遣事業を行う事業所ごとの当該事業に係る派遣労働者の数、労働者派遣の役務の提供を受けた者の数、労働者派遣に関する料金の額の平均額から派遣労働者の賃金の額の平均額を控除した額を当該労働者派遣に関する料金の額の平均額で除して得た割合として厚生労働省令で定めるところにより算定した割合、教育訓練に関する事項その他(略)に関し情報の提供を行わなければならない。

義務の名宛人は「派遣元事業主」だけです。準委任契約で事業を行うSES企業は派遣元事業主ではないため、この条文の義務は及びません。「なぜSESでは自分の単価が分からないのか」という疑問の法的な答えがこれです。条文上「マージン率」という語が使われておらず、「料金の平均額から賃金の平均額を控除した額を料金の平均額で除して得た割合」と定義されている点もあわせて押さえておくと、交渉の場で言葉が正確になります。

開示義務がないことは、単価を尋ねてはいけないという意味ではありません。契約自由の範囲で、自社の還元方針を説明する企業も、単価連動の報酬制度を持つ企業もあります。相場観についてはSES単価の相場とSESエンジニアの月単価を参照してください。

境界を越えたときの罰則は、受け入れ側にも及ぶ

偽装請負の法的リスクは、労働者派遣法と職業安定法の両面から発生します。

法令 条文 内容 法定刑
労働者派遣法 59条2号 許可を受けずに労働者派遣事業を行った者 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
労働者派遣法 24条の2 派遣元事業主以外からの労働者派遣の受入れ禁止 (同条自体に直接の刑事罰なし)
職業安定法 44条 労働者供給事業の禁止。供給を受けて自らの指揮命令の下に労働させた側も名宛人 64条10号:1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
労働者派遣法 62条 両罰規定(行為者のほか法人にも罰金刑) 各本条の罰金刑

職業安定法44条は「何人も(略)労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない」と定めています。受け入れる側にも義務があるという点は、客先企業との条件交渉で有効な論拠になります。

なお、2025年6月1日施行の刑法改正により懲役と禁錮は拘禁刑に一本化されました。e-Gov法令検索で確認した現行条文では、労働者派遣法・職業安定法とも「拘禁刑」表記になっています(2026年8月27日確認)。古い解説の「懲役」表記は現行法と一致しません。

多重下請け:公正取引委員会の実態調査が示した数字

SESの単価が目減りする理由は、契約構造そのものではなく、その契約が何層も重なることにあります。公正取引委員会は2022年6月、18年ぶりにソフトウェア業の実態調査を公表しました。資本金3億円以下の21,000社に調査を依頼し、4,739社(回答率22.6%)から回答を得た大規模調査です。

指標 全体 元請 中間下請 最終下請
取引上の位置付け(n=4,589) — 40.4% 38.2% 21.3%
「中抜き」事業者の存在を感じたことがある(n=4,346) 25.9% 18.5% 29.2% 33.5%
下請取引依存度90%以上 36.3% — 31.6% 44.6%
価格交渉が十分にできているとは言えない — — 34.3% 44.6%

報告書には、事業者から寄せられた次のような記述が収録されています。

エンジニアの準委任契約(SES)では最大5社が中間に入るケースがあり、間に入っている企業は何もしない。

公正取引委員会はここでいう「中抜き」を、「多重下請構造の下、商流上は形式的に関与するものの、実際には何ら業務を行うわけでもないのに利益を上げている者(与信の供与など、業務以外の面で実質的な貢献を行っている場合を除く。)」と定義しています。与信や瑕疵担保の引受けといった実質的な機能を果たしている中間事業者は、これに含まれません。「間に会社が入ること」自体が問題なのではなく、機能を果たさずに利益だけを取る場合が問題だという整理です。

数字が示す構造:発注側も中小企業

同調査は、元請の55.0%、中間下請の46.1%が資本金1,000万円以下であり、そこから発注を受けている事業者は下請法(当時)の適用外だったと指摘しています。ソフトウェア業の事業所25,977か所のうち、従業者4人以下が10,476か所で約40.3%を占めます。情報通信業全体でも、企業55,731社のうち中小企業が55,174社で99.0%です(中小企業庁「産業別規模別企業数」2021年6月時点、令和3年経済センサス‐活動調査再編加工)。

加えて、令和3年度の下請法実体規定違反措置件数7,878件のうち、「情報サービス業」が686件で全業種トップでした(2位は機械器具卸売業678件)。内訳は支払遅延82.7%、買いたたき9.2%、減額6.4%です。

業界構造の問題をさらに掘り下げた記事として、SES業界の問題点を公的統計で検証もあわせてお読みください。

2026年1月1日、下請法は「取適法」に変わりました

公正取引委員会が2022年に指摘した買いたたき・支払遅延への制度的な回答が、2026年1月1日に施行されています。

項目 内容
正式名称 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(昭和三十一年法律第百二十号)
略称 中小受託取引適正化法/通称「取適法(とりてきほう)」
改正法 令和7年法律第41号(2025年5月16日成立・5月23日公布)
施行日 2026年1月1日(同日以降に行う製造委託等について適用)
用語変更 「下請事業者」→中小受託事業者/「親事業者」→委託事業者

主な改正点は5つです。

  • 従業員基準の追加:資本金基準に加えて従業員数でも適用対象を判定。資本金1,000万円以下の小規模な発注者からの取引が対象外になっていた穴が塞がれます
  • 協議に応じない一方的な代金決定の禁止:買いたたきへの直接的な規制強化
  • 手形払等の禁止:支払遅延の温床への対応
  • 特定運送委託を対象取引に追加
  • 事業所管大臣等による指導・助言に係る規定の整備(面的執行の強化)

法令番号が旧下請法と同一(昭和31年法律第120号)であることからわかるとおり、新法の制定ではなく題名の改正です。SESの多層取引では発注側も中小企業であることが多いため、従業員基準の追加は実務上の影響が大きい変更といえます。

出典:公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」/公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」令和7年11月PDF(最終アクセス:2026年8月27日)

SESの需給環境:数字の出典を正しく押さえる

SESの仕組みが機能している背景には、IT人材の需給ギャップがあります。ただしここで広く引用されている「2030年に最大79万人不足」という数字は、出典の帰属が広く誤って流通しています。

調査 公表 2030年の需給ギャップ 備考
IT人材の最新動向と将来推計に関する調査 2016年6月・経済産業省 約79万人 「79万人」の本来の出典はこちら
IT人材需給に関する調査 2019年3月実施・2019年4月概要公表 中位45万人(供給113万人・需要158万人) 三省連携。事務局は経産省+みずほ情報総研

2019年調査の概要本文で明記されている需給ギャップは中位シナリオの45万人で、「79万人」は高位シナリオの需要(192万人)と供給(113万人)の差として導かれる値です。同調査で最大の不足を示すのは高位シナリオ(需要192万人)と供給113万人の差分ですが、これは読者側の引き算であって、報告書が掲げた数字ではありません。同調査はまた、「年3.54%の労働生産性上昇を実現した場合には、2030年時点のIT人材の需要と供給は均衡することが見込まれる」とも述べています(日本の情報通信業の生産性上昇率は2010年代で0.7%、米国2.2%、ドイツ4.2%)。人数の不足は所与ではなく、生産性の関数として提示されているのです。

市場規模の側から見ると、2024年の情報通信産業の名目GDPは71.7兆円で、全産業623.5兆円の約11.5%を占め全産業中で最大規模です。民間企業の情報化投資25.7兆円のうち、受託開発とパッケージソフトを合わせたソフトウェア投資が20.2兆円(約78%)を占めます(総務省「令和8年版 情報通信白書」2026年7月)。

契約前・常駐前に確認する18項目チェックリスト

ここまでの条文と行政解釈を、確認可能な項目に落とします。転職・案件参画の判断材料として使えます。

契約の型を確認する(6項目)

  • □ 契約書の表題ではなく報酬条項を読んだか(履行割合型か成果完成型か)
  • □ 業務範囲・完了条件・成果の定義が具体的に書かれているか(「人数×期間」だけになっていないか)
  • □ 契約期間と更新条件、更新拒絶の予告期間が明記されているか
  • □ 中途終了時の精算方法(日割り・時間割)が定められているか
  • □ 精算幅(下限・上限時間)と超過・控除の単価が明記されているか
  • □ 再委託の可否と、再委託先の範囲が定められているか

指揮命令の線を確認する(6項目)

  • □ 管理責任者が誰か、常駐か非常駐か、連絡手段は何か
  • □ 作業の割付・優先順位を決めるのは誰か
  • □ 始業終業・残業の指示を出すのは誰か(把握と指示は別物)
  • □ 客先からの依頼が管理責任者を経由する運用になっているか
  • □ 客先の会議に単独で出る場合、その場で作業指示を受ける建付けになっていないか
  • □ 常駐が自分1人の現場で、自分が管理責任者を兼ねていないか

取引条件と自分の位置を確認する(6項目)

  • □ 商流に何社入っているか(元請から自社まで何次か)
  • □ 中間の各社が果たしている機能を説明できるか
  • □ 自社の給与制度が単価連動か、固定給+賞与か、どちらを基準に評価されるか
  • □ 待機期間中の賃金の扱いが就業規則・労働契約書に明記されているか
  • □ 客先都合の中途解除が起きた場合の、自分の雇用と賃金の扱いを確認したか
  • □ 面談の場で、業務内容と体制について自分から質問できる状態か

関連して、面談での確認事項はSES面談の準備、契約終了時の扱いはSES契約終了の完全ガイドに整理しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. SESと派遣は、結局どこが違うのですか。

指揮命令権の所在です。派遣は労働者派遣法2条1号が定めるとおり「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」であり、客先が指揮命令します。SES(準委任)では指揮命令権はSES企業側に残ります。加えて派遣では44条・45条の特例により労働時間管理などの労基法上の責任が派遣先に移りますが、準委任ではこの特例が働きません。

Q2. 客先から直接「この作業を先にやって」と言われました。違法ですか。

その一言だけで違法と断定はできません。疑義応答集第1集Q1は、業務に関係のない日常会話は偽装請負にあたらないとし、第1集Q2は客先から請負事業主(会社)に対する要求は契約当事者間の行為であるとしています。問題になるのは、作業の順序・方法・割付を客先が日常的に決めている実態です。単発か日常かで評価が変わるため、まずは自社の管理責任者に事実を共有してください。

Q3. 準委任なのに客先が事前面談を求めるのは、なぜ問題になるのですか。

37号告示1号ハ(2)は「労働者の配置等の決定及び変更を自ら行う」ことを請負側の要件としています。客先が面談で人を選ぶと、この配置決定が客先に移ってしまいます。疑義応答集第2集Q13は、職務経歴書の要求や事前面談について「一般的には当該行為が請負労働者の配置決定に影響を与えるので、労働者派遣事業又は労働者供給事業と判断されることがある」と述べています。一方、第3集Q7は、個人を特定できない技術レベルと経験年数のスキルシート提出要求だけでは直ちに偽装請負ではないとしています。

Q4. 準委任だと、成果物に一切責任を負わないのですか。

いいえ。負う義務が「完成」ではなく「善管注意義務」(民法644条)だというだけです。専門家として通常期待される注意を欠いた処理をすれば、成果物の有無にかかわらず債務不履行を問われ得ます。また報酬を成果に紐づける契約(成果完成型準委任、民法648条の2)であれば、成果の引渡しが報酬の条件になります。契約書の報酬条項を確認してください。

Q5. SES企業に単価を聞いても教えてもらえません。おかしいのでしょうか。

労働者派遣法23条5項の情報提供義務は「派遣元事業主」に課されたものであり、準委任で事業を行うSES企業には及びません。したがって法律上の開示義務がないこと自体は違法ではありません。ただし、開示義務がないことと、質問してはいけないことは別です。評価制度や単価連動の有無を確認すること、契約更新のタイミングで条件を話し合うことは、通常の労使間のやりとりの範囲です。

Q6. 商流が何次まで深いと問題ですか。何次以下なら安全という基準はありますか。

公的な基準としての「何次まで」という線引きは存在しません。公正取引委員会も次数そのものではなく、中間事業者が実質的な機能を果たしているかどうかを問題にしています。実務的には、次数の深さより「各社が何をしているか説明できるか」「価格交渉の余地があるか」を確認するほうが判断材料になります。なお同調査では、下請取引依存度90%以上の事業者が最終下請で44.6%にのぼることが示されています。

Q7. 2026年1月の取適法施行で、SESの現場は何か変わりますか。

制度としては、従業員基準の追加により適用対象の取引が広がり、協議に応じない一方的な代金決定と手形払等が禁止されました。従来は発注側も資本金が小さいために下請法の適用外だった取引が相当程度あった(公正取引委員会2022年報告書)ことを踏まえた改正です。ただし施行から日が浅く、現場の運用にどう反映されるかはこれから確認していく段階です。契約更新時に、支払条件・代金決定のプロセスが書面化されているかを見ておくとよいでしょう。

まとめ:仕組みを条文で持っていると、話が具体的になる

SESの仕組みを整理すると、押さえるべき点は次の5つに絞られます。

  • 契約は2本、指揮命令の線は1本。客先とエンジニア本人のあいだには契約関係がない
  • SES=準委任は民法656条を起点に643条以下を準用する。負う義務は完成ではなく善管注意義務(644条)
  • 報酬ルールは履行割合型(648条3項)と成果完成型(648条の2)の2種類。契約書の報酬条項で決まる
  • 派遣との境界は37号告示。原則は派遣扱いで、要件をすべて満たしてはじめて請負・準委任と認められる。迷う場面の答えは疑義応答集第1〜3集にある
  • 単価が目減りする原因は契約形態ではなく多重構造。2026年1月施行の取適法はここに手を入れている

条文と告示を手元に持っていると、「なんとなく違和感がある」で終わっていた話が、「37号告示1号ロの労働時間管理が客先に移っている」という具体的な言葉になります。会社と話すときも、案件を選ぶときも、この具体性が判断の精度を上げます。

契約条件の整理について相談する

株式会社HLTでは、SESで働くエンジニアの支援を行っています。契約形態や商流、評価制度の見方について整理したい場合は、一緒に確認していくことができます。一般に、契約書の報酬条項・業務範囲・更新条件を読み解き、自分の技術と経験が業務のどの部分に対応しているかを言語化しておくと、契約更新や単価見直しの話し合いに臨みやすくなります。上流工程への移行や資格取得を含めたキャリアの方向づけについても、ご相談を承ります。

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参考文献・出典