新卒でSES企業に入ること自体は、キャリアの失敗ではありません。ただし「SESなら安心」とも言えません。SESは会社ごとの差がとても大きい働き方で、研修の中身、最初の配属先、案件の選び方、待機中の給与の扱いによって、最初の3年間で身につくものが大きく変わります。新卒でSESを考えるなら、「SESかどうか」よりも「この会社で最初の数年に何ができるか」を確かめることが大切です。
「SES 新卒 やめとけ」と検索すると、否定的な意見がたくさん出てきます。その中には業界の仕組みから来る本当の話もあれば、会社によってはまったく当てはまらない話もあります。この記事では、新卒でSESを考えている学生の方に向けて、やめとけと言われる理由をひとつずつ分けて整理し、説明会や面接でそのまま使える質問、避けたほうがよいサイン、そして「内定がSESしかない」ときの考え方と最初の1〜3年の使い方をまとめます。
内容は2026年9月時点の一般的な制度・仕組みにもとづいています。個々の会社の条件は、必ずその会社の労働条件通知書や面接での説明で確認してください。
新卒が知っておきたいSESの仕組み
SES(システムエンジニアリングサービス)は、IT企業が取引先(クライアント)と契約を結び、自社の社員であるエンジニアが取引先のシステム開発・運用・保守などの業務を担う働き方です。多くの場合、エンジニアは取引先のオフィスや取引先が指定する環境で働きます(客先常駐)。リモートで参加する案件もあります。
新卒で入社する場合、雇用主はあくまでSES企業です。給与を払うのもSES企業で、社会保険や有給休暇もSES企業の制度が適用されます。一方で、日々一緒に仕事をするのは取引先の社員や、ほかの会社から来ているエンジニアであることが多くなります。
契約は「準委任」が中心で、指示の出し方にルールがある
SESの契約は、一般に「準委任契約」の形をとります。準委任契約では、取引先はSES企業のエンジニアに直接業務の指示(指揮命令)を出すことはできません。指示はSES企業側の責任者を通すのが原則です。取引先がエンジニアに直接、細かく仕事の指示を出したり、勤務時間を管理したりしている場合、実態としては労働者派遣にあたり、いわゆる「偽装請負」として労働者派遣法や職業安定法の問題になり得ます。この判断には、厚生労働省の告示(いわゆる37号告示)の基準が使われます。
新卒のうちは契約の中身まで意識することは少ないかもしれませんが、「誰の指示で働くのか」「困ったときに誰に相談するのか」は入社後の働きやすさに直結します。詳しくはSES偽装請負の判断基準(37号告示の2要件と現場10類型)で解説しています。
新卒で入社した場合の一般的な流れ
会社によって違いますが、よく見られる流れは次のとおりです。
- 入社後、社内または外部の研修でプログラミング、ネットワーク、Linux、データベースなどの基礎とビジネスマナーを学ぶ
- 取引先との面談(顔合わせ)を経て、最初の案件に参加する
- 最初はテスト、運用監視、ヘルプデスク、開発の補助など、手順が決まった業務から始まることが多い
- 経験を積みながら、開発・構築・設計など、より幅の広い業務へ移っていく
この「3」と「4」の間がどのくらいの期間で、どう移っていけるのかが、会社ごとに最も差が出る部分です。
「新卒でSESはやめとけ」と言われる理由と、どこまで本当か
やめとけと言われる理由は、大きく分けると「仕組みから来るもの」と「会社によって違うもの」があります。両者を分けて考えると、何を確認すればよいかがはっきりします。
| よく言われること | 本当の部分 | 会社によって変わる部分 |
|---|---|---|
| 最初の案件がテストや監視ばかりで、スキルが身につかない | 未経験の新卒が最初から開発の中心を任されることは少なく、手順が決まった業務から始まるのは一般的 | その後の移り方。次の案件で開発や構築に移れるか、同じ業務に何年も据え置かれるか |
| 自分で案件を選べない | 案件は取引先の募集と面談の結果で決まるため、希望がそのまま通るとは限らない | 希望を聞く面談があるか、断る余地があるか、複数の候補から選べるか |
| 会社への帰属意識が持てず、相談相手がいない | 客先常駐では自社の人と毎日顔を合わせない | 定期的な面談、メンター、社内勉強会など、つながりを保つ仕組みがあるか |
| 多重下請けで給与が低い | 商流が深い(間に多くの会社が入る)ほど、エンジニアに回る金額は小さくなりやすい | 取引先との契約が直接なのか、何社目の位置で受けているのか。給与の決め方が明示されているか |
| 案件がないと待機になり、給与が下がる | 案件と案件の間に待機期間が生じることはある | 待機中も通常どおり給与を払うのか。会社都合の休業の場合、労働基準法26条で平均賃金の60%以上の休業手当が必要だが、それを上回って払うかは会社次第 |
| 偽装請負の現場に入れられる | 業界として問題が指摘されてきたのは事実 | 会社が契約形態と指示の流れを説明でき、法令を守る姿勢があるか |
こうして見ると、「やめとけ」の多くは「SESという仕組みの中で、会社が手を打っていない場合に起きること」です。逆にいえば、会社がこれらに対してどういう仕組みを持っているかを確かめれば、多くのリスクは入社前に見極められます。
本当に注意すべきなのは「最初の配属のまま動けないこと」
新卒にとって一番避けたいのは、スキルの伸びにくい業務に長く留まり、3年たっても職務経歴書に書ける内容が少ない状態です。最初の案件がテストや監視であること自体は問題ではありません。テスト設計や障害対応は、システムの動きを理解するうえで役立つ経験です。問題は、その後にどう動けるかの見通しがないことです。
離職率についてはSESの離職率は本当に高いのかを公的統計で検証した記事を参考にしてください。
会社を選べば得られる、新卒でSESに入るメリット
デメリットと同じように、メリットも「どの会社でも得られるもの」ではありません。ここでは、会社をきちんと選んだ場合に期待できることを挙げます。
未経験・文系でも入口がある
SES企業には、入社時点でのプログラミング経験を問わず、研修で基礎から教える会社が多くあります。情報系の学部でなくても、エンジニアとして社会人のスタートを切れる入口のひとつです。研修が会社の指示で行われる場合、その時間は労働時間にあたるため、給与を受け取りながら学べます。
複数の現場を経験し、向き不向きを確かめられる
案件が変わると、業界、使う技術、チームの進め方も変わります。入社前には分からなかった「自分はインフラの方が合う」「業務システムの開発が好き」といった向き不向きを、実際の現場で確かめられるのはSESの特徴です。ただし、案件の変わり方は会社や取引先の状況に左右されるため、「必ず色々な現場を経験できる」わけではありません。
正社員として安定した収入を得ながら経験を積める
SES企業の正社員であれば、毎月の給与、社会保険、有給休暇といった基本的な待遇は、ほかの業種の正社員と同じように適用されます。フリーランスのように案件の有無で収入が大きく変わることはありません。
いろいろな会社の仕事の進め方を見られる
取引先の社員や他社のエンジニアと一緒に働くため、仕事の進め方やドキュメントの書き方、レビューのやり方など、会社ごとの違いを若いうちから見られます。これは、将来どんな会社で働きたいかを考える材料になります。
説明会・面接で聞くべき質問と、避けたほうがよいサイン
SES企業を見極めるには、説明会や面接で具体的に質問するのが一番確実です。質問すること自体は失礼ではありません。むしろ、具体的な質問にどう答えるかで、会社の姿勢がよく分かります。
そのまま使える質問リスト
次の質問は、答えが「はい・いいえ」で終わらず、仕組みや実例が出てくるかどうかを見るのがポイントです。
- 研修について:「研修期間はどのくらいで、何を学びますか。研修中の給与は本配属後と同じですか」
- 最初の案件について:「新卒・未経験で入社した人は、最初にどんな業務の案件に入ることが多いですか。その後、次の案件へ移るのは一般的にどのくらいの期間ですか」
- 案件の決め方について:「案件はどのように決まりますか。本人の希望を聞く場はありますか。提示された案件を断ることはできますか」
- 相談体制について:「客先常駐中、自社の誰にどのくらいの頻度で相談できますか。面談や1on1の仕組みはありますか」
- 待機期間について:「案件と案件の間の待機期間中、給与はどうなりますか。その間は何をしますか」
- 商流について:「取引先とは直接契約の案件が多いですか。二次請け、三次請けの案件はどのくらいありますか」
- 評価と給与について:「昇給はどんな基準で決まりますか。担当する案件の単価は給与に反映されますか」
- 資格について:「資格の受験費用の補助や資格手当はありますか。対象の資格と金額を教えてください」
- 働き方について:「残業時間はどのくらいですか。固定残業代は含まれていますか。含まれる場合、何時間分ですか」
面談の進め方や面接でよく聞かれる質問は、SES企業の選び方と面接質問集でも詳しく紹介しています。
避けたほうがよいサイン
次のような対応が見られた場合は、ほかの会社とも比べて慎重に判断することをおすすめします。
- 研修の期間や内容を聞いても「現場で覚える」「人による」など、具体的な説明がない
- 待機期間の給与について、はっきり答えない、または書面で示せない
- 案件の決め方について「会社が決める」以外の説明がなく、本人の希望を聞く仕組みがない
- 入社承諾を急がせる(その場での承諾を求める、ほかの選考の辞退を条件にする)
- 労働条件通知書(雇用契約書)を内定承諾前に見せてもらえない、または内容の説明を避ける
- 求人票の給与と、面接で説明される給与の条件(固定残業代の有無など)が違う
- 「取引先の指示に全部従ってもらう」など、指示の流れについての説明が法令の考え方とずれている
内定が出たら書面で確かめること
会社は、労働基準法にもとづき、賃金や労働時間などの主な労働条件を書面などで明示する必要があります。内定を承諾する前に、次の点を労働条件通知書で確認しましょう。
- 基本給と手当の内訳、固定残業代がある場合はその時間数と金額
- 研修期間中・試用期間中の給与と待遇
- 就業場所(「取引先の事業所」などの書き方と、その範囲)
- 勤務時間、休日、残業の扱い
- 雇用形態(正社員か有期雇用か)と契約期間
複数の内定を比べるときは、初任給の金額だけでなく、研修、待機中の給与、案件の決め方、相談体制まで含めて比べると、入社後の差が見えやすくなります。
「新卒でSESしかない」ときの考え方と、最初の1〜3年の使い方
就職活動を進めた結果、エンジニア職の内定がSES企業だけという状況は珍しくありません。その場合、「SESしかないから仕方なく入る」と考えるより、「最初の数年で何を身につけ、次にどうするか」を決めて入るほうが、後悔が少なくなります。
入るかどうかを決める3つの基準
- エンジニアとして働きたい気持ちがあるか:IT以外の職種も含めて迷っているなら、ほかの業界の選択肢も改めて比べてみる価値があります。エンジニアになりたい気持ちがはっきりしているなら、SESは現実的な入口のひとつです。
- その会社の答えに納得できたか:前の節の質問に具体的な答えが返ってきたか。避けたいサインが複数当てはまるなら、就職活動を続ける、既卒・第二新卒として改めて探すといった選択肢も検討できます。
- 3年後にどうなっていたいかを言えるか:たとえば「インフラの構築ができるようになりたい」「Javaで業務システムの開発ができるようになりたい」など、方向がひとつあるだけで、案件の希望を伝えるときの軸になります。
1年目:基礎と「書ける経験」をつくる
1年目は、研修で学んだ基礎を現場で使えるようにする時期です。最初の案件がテストや運用監視であっても、次のようなことを意識すると、経験の中身が変わります。
- 担当しているシステムの構成(サーバー、ネットワーク、データベース、使われている言語)を把握する
- 障害対応やテストで見たログ、手順書の内容を理解し、自分の言葉で説明できるようにする
- 担当した業務、使ったツール、工夫したことを、月ごとにメモしておく(後で職務経歴書に使えます)
- ITパスポートや基本情報技術者試験など、基礎を確かめる資格に取り組む(どちらもIPAが実施するCBT方式の国家試験です)
2年目:次の案件で「一段上」の業務を希望する
2年目は、案件の切り替わりや契約更新のタイミングで、次に何をしたいかを自社の担当者に伝える時期です。「テストから開発へ」「監視から構築へ」のように、今の業務の一段上を具体的に希望しましょう。1年目のメモや取った資格は、その希望の裏付けになります。
希望を伝えても何も変わらない、相談する相手もいないという状態が続くなら、会社を変えることを考えるきっかけになります。
3年目:市場での自分の位置を確かめる
3年目になると、実務経験として説明できる内容がある程度そろいます。転職するかどうかに関係なく、職務経歴書を一度書いてみると、自分に何ができて何が足りないかが分かります。そのうえで、今の会社で上の役割を目指すのか、別のSES企業や自社開発企業、事業会社の社内SEなどに移るのかを考えましょう。
その先の進路はSESエンジニアのキャリアパス(5つの進路と判断基準)で詳しく整理しています。新卒での選択は、一生を決めるものではありません。大切なのは、最初の数年で「説明できる経験」を積むことです。
HLTの場合
株式会社HLT(東京都港区赤坂、2023年7月31日設立)もSES企業です。ここでは、採用サイトに掲載している内容をもとに、新卒や未経験の方に関係する点を紹介します。
応募できる方
HLTの募集は新卒専用の枠ではありませんが、年齢制限は設けておらず、18歳以上であれば応募できます。未経験の方も歓迎しています。卒業前の応募や入社時期については、エントリー後の面談で相談してください。
求人は3つあります。JAVAエンジニアの応募要件には「Javaを習得中の方」も含まれています。インフラエンジニアとフロントエンジニアは、応募要件に実務経験を挙げていますので、各ページで内容を確認してください。
研修とサポート
- 未経験の方向けに、3ヶ月の研修を用意しています
- 研修期間中も、同額の給与を支払います
- メンターが1on1で定期的にサポートします(月2回以上のメンタリング)
- AWS認定や情報処理技術者試験などの受験費用を補助し、取得後は資格手当(AWS認定:月1万円〜、情報処理技術者:月5千円〜)を支給します
待遇と選考
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 雇用形態 | 正社員/有期雇用契約(試用期間3ヶ月) |
| 給与 | 正社員:月給24万円〜/有期雇用契約:月給22万円〜(経験・スキルを考慮。求人ごとの給与は各求人ページに記載) |
| 休日 | 完全週休2日制(土日祝)、年次有給休暇、慶弔休暇 |
| 保険 | 健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険 |
| 選考 | エントリー → 書類選考 → カジュアル面談 → 技術確認(未経験の方は適性検査の場合あり)→ 最終面接 → 内定 |
| 面接 | オンライン可(Zoom/Google Meet) |
この記事で挙げた質問(研修の内容、最初の案件、待機中の扱い、案件の決め方など)は、HLTのカジュアル面談でもそのまま聞いていただけます。応募前に気になる点はよくある質問もご覧ください。応募はエントリーフォームから受け付けています。
よくある質問
新卒でSESに入ると、市場価値は下がりますか?
SESに入ったこと自体で市場価値が下がるわけではありません。転職のときに見られるのは、どの会社にいたかよりも、どんな業務を担当し、何ができるようになったかです。ただし、同じ補助的な業務に何年も留まると、説明できる経験が増えにくくなります。案件の移り方を入社前に確認し、入社後は担当業務を記録しておくことが大切です。
SESから自社開発企業に転職できますか?
可能性はあります。開発の実務経験があり、使った技術や担当した工程を具体的に説明できれば、自社開発企業も選択肢に入ります。一方で、テストや監視の経験だけでは難しい場合もあるため、在籍中に開発や構築の業務へ移れるよう、希望を伝えることや自分での学習が必要です。
文系・プログラミング未経験の新卒でもSESに入れますか?
研修で基礎から教えることを前提に、未経験の新卒を採用しているSES企業はあります。ただ、研修の期間や内容は会社によって大きく違います。就職活動の前に、簡単なプログラミングの学習やITパスポートの勉強をしておくと、面接で意欲を具体的に伝えやすくなり、入社後の研修にもついていきやすくなります。未経験からの進め方は未経験からSESエンジニアへの学習ロードマップも参考にしてください。
「SESはブラック」というのは本当ですか?
SES企業の中には、待機中の給与が大きく下がる、相談できる人がいない、法令上問題のある現場に送られるといった会社があるのは事実です。一方で、こうした点に仕組みで対応している会社もあります。「SESだからブラック」と決めつけるより、この記事の質問リストを使って、個々の会社を確かめることをおすすめします。
最初の案件が希望と違ったら、すぐ辞めるべきですか?
最初の案件が希望と違うことはよくあります。まずは自社の担当者やメンターに、次に何をしたいかを伝え、どのくらいで移れそうかを確認しましょう。そのうえで、体調を崩すほどの状況や、法令に反する働き方をさせられている場合は、早めに社外の窓口(労働局の総合労働相談コーナーなど)に相談することも考えてください。










